●松本市とギター産業

長野県松本市。
ご存知の方も多いと思いますが、1960年代以降〜現在に至るまで、日本いや世界を代表するギターメーカーがひしめくギターの一大産地である。
(写真:松本市HPより)
(松本市公式観光情報ポータルサイト→ http://youkoso.city.matsumoto.nagano.jp/)

松本は本州のほぼ中央に位置し、城下町として古くから栄えており、後には紡績を中心に木工産業も盛んになっていきました。

そして戦後の高度経済成長期には機械金属工業が盛んになっていき、工業団地の整備もあり様々な企業が集まっていきました。そんなことが意外と後のギター作りの後ろ盾になっているのかもしれません。

東には日本アルプス、西には美ヶ原を望むこの土地は、寒暖の差が大きく夏の朝晩はとても涼しい気候で、冬の寒さは厳しいが、雪は少ない方。
日本有数の乾燥した気候のこの土地は、1960年代は市内に大きな木工関係の工場がたくさんあったとのことです。(渚には信州木工、南松本近辺には松本木工(後のマツモク)、塚田製作所・・等々)
今ではもうそれらの会社は存在していませんが、木工団地には家具屋さん、市内には松本民芸家具など、その名残はまだ残っています。
先に述べたそれらの会社は、エレキブームが来るまでは、大手ミシンメーカー(シンガー、ジャノメ)のキャビネットや、テレビ、スピーカーのキャビネットなどを主に製造していたようです。(若い方には想像できないかもしれませんが、当時のミシン台、テレビ、ステレオは木製のキャビネットがあたりまえで、まだまだ高級品だった時代のことです。)

時はまさにベンチャーズ、そしてビートルズから始まった空前のエレキブームに日本中が揺れている真っ只中でした。

私の父は1966年当時、塚田製作所のトラックの運転手をしていた関係もあり、当時のことをおぼろげながら思い出してもらったのですが、塚田製作所では主に三洋のテレビキャビネット、山水のスピーカーを製造していた他に、マツモクの下請けでもあったようでグレコのギターも製造していたらしい。(少しややこしいのですが、元々マツモクはシンガーミシンのキャビネット製造をしていたが、当時は富士弦楽器のギターをOEM生産しており、おそらく塚田製作所はさらにその下請けだったのだろう、出来上がったギターを工場へ納品していたと語っている。)
当時は、大町に木材の乾燥工場があり、木材も運んでいたと語っている。その頃のギターは主にラワンが材料で、よく乾燥不足によるネックのネジレや割れたギターがあったそうだ。また、塗装も自社内で行っていたようで、塗装されたギターが乾燥のために天井裏をゆっくり回っていたそうである。(今は絶対ムリ(笑))

(ここまで:2008.2/16)
 

●ロックとエレキギターの始まり

何事も突然今の形態になったわけではなく、今まで積み重ねてきたものが融合、または変異してきたものが数多い。 ギターの起源は古く、紀元前1400年頃のエジプト文明やメソポタミア文明にまで遡り、15,16世紀のルネッサンス時代を経て、17世紀にバロック・ギターが一般的になり、18世紀終わり頃に現在のクラシック・ギターの原型である6弦が生まれたとされています。そして19世紀にかけて黄金期を迎えます。

1920年代、カントリー&ウエスタン、リズム&ブルースそれぞれが発展する過程でギターも他の管楽器などに埋もれない大音量を出す必要が生じてきて、スチール弦をつかったり、アーチド・トップにしたり様々な工夫が凝らされた。後の1931年にリッケンバッカーから世界初のエレクトリック・ギターとなる“フライング・パン”が発明される。(といってもハワイアン・スチールギター) 1935年、ギブソンからもES150というエレクトリック・ギターが生まれたが、まだまだ主役とはいえない時代が続き、1948年、フェンダーから画期的なソリッド・ボディのエレクトリック・ギター“ブロードキャスター”(後のテレキャスター)が発売される。それを目の当たりにしたギブソンからも1952年、当時人気のギター・プレイヤーであり発明家?でもあるレス・ポール氏のアイデアを基に“レスポール・ギター”が誕生し、フェンダーからもテレキャスターの進化版ともいえるストラトキャスターが続けざまに発売される。
エレキギターの2大スタンダードがここで出揃うわけだが、伝統的なスタイルのギブソン、生産性を重視したフェンダーと両極端でありながら、どちらもエレキギターのグローバル・スタンダードとして現在まで君臨しているのはご存知の通り。

エレキギターの進化には当時の音楽シーンの変化が大きく関わっている。一般的にロックンロールとは1950年代半ば、白人のカントリー&ウエスタン、黒人のリズム&ブルースが融合してできたものとされていますが、ロックンロールの登場によって、新たな使い方を見出されたエレクトリックギターは、ついに花開くことになる。それは1960年代、サーフ・ミュージックの大ブーム、そして1963年、ビートルズの登場でエレキギターの人気は決定的となったのである。

当然、日本でも1950年代終わり頃にはエルヴィス・プレスリーの影響でロカビリーが大ブームになっており、すでにロック=不良の図式は出来上がっていたのでしょう(笑)。その後のベンチャーズの影響で大ブームになったエレキギターはあっという間に社会現象にまで発展。エレキ禁止令までまじめに出る始末となった(今では考えられない話である)。当時は、TV番組「勝ち抜きエレキ合戦」など楽しそうな番組もあった(しかもゴールデンタイムに3本も同じような番組があるという過熱ぶりだったそうだ。 
そして世界中をすさまじい勢いで席巻していたビートルズが1966年に初来日してからは日本でもGSブームが巻き起こることになる。 しかし、あまりに急激に膨れ上がったブームはその後一気に冷めることになっていくのである。

*1966年の記事で2年間で推定40〜50万本のエレキギターが売れたとある。最初数社だったメーカーがピーク時には120社以上にもなっていたというから驚きだ。(小さな木工場、ミシン会社の下請け(マツモクのことだね)、ゲタ屋まであったとのこと)


(ここまで:2008.2/18)


●日本のエレキの時代

1960年、松本市筑摩に“富士弦楽器”(現フジゲン)が産声を上げる。 元々は牛小屋を改装した建物で、ヴァイオリン作りからスタートした。
1983年には名実ともに世界一のメーカーになるのだが、そのサクセス・ストーリーは、フジゲン渇。内会長著『運を掴む』をお読みいただきたいと思う。
先見の明もあったのだのだか、まさに氏の血のにじむような努力のおかげで、松本、いや日本の楽器業界に大きな貢献をもたらしたといえるだろう。若者に手の届くエレキギターを提供してくれた功績は大きい。きっとそこから数多くのミュージシャンの卵が生まれたことだろう。そして、大きな雇用を生み、松本市の発展にも恩恵を与えてくれたと思うと感謝の念に堪えないのである。


話は戻りますが、1960年代に始まり、急激な進展を遂げた日本のエレキギター産業。それは決して平坦な道のりではなかったようです。 GSブームの終わりとともにギターは売れなくなり倒産、吸収されていくメーカー。1969年頃にはその数は激減していたと思われます。

当時の松本市及び近隣全てのメーカー、工場を把握するのは難しいのですが、時間の許す限り調査して、追加修正していきたいと思います。(調査継続中)



(ここまで:2008.2/23)




富士弦楽器製造梶i現フジゲン梶j 1960年松本市筑摩で創業、平田の後、ギター部門は大町に移管となり現在に至る。創業当初は自社で直接販売していたが後に、国内を神田商会と荒井貿易、輸出を星野楽器が行うようになる。1960年代はテスコとの関係もあったらしいが詳細は不明。  Greco, Ibanez, Fender Japan, Orville by Gibson, Epiphone, CandaAria(acousticのみ?)Rolandと合弁でGR・・・etc 現在では馴染みの深いGrecoFender Japanは製造されていないがその他メーカーのOEM生産も数多くこなすトップメーカー。現在は自社ブランドFGNに力を注いでいる。(工場見学も受け入れているので一度訪問すると、その技術力の高さがわかります。さすが世界のフジゲン!) 

マツモク工業梶i旧松本木工)  Aria ProU、Arai DiamondWestminsterWestoneEpiphoneFantom Greco ELK

工場は並柳の南松本駅の南隣にあり、元はシンガーミシンと日本製鋼所の孫会社としてミシンキャビネットを製造。フジゲンのギターを生産したことを機に荒井貿易とタイアップしギターメーカーに転向。後はコピー・モデルの他、優れたオリジナルギターを次々に排出。フジゲンと双璧をなすトップメーカーとなる。 廃業後、工場は取り壊され、現在は公園として整備されている。(ギター型の石碑が今でも残っている)

Sugi Guitars(スギ・ミュージカル・インストゥルメント(有)) 松本、いや世界屈指のマスタービルダー杉本氏率いるメーカー。フジゲン時代から数々の開発に携わっておられ、もはや神の領域・・・。作れているギターは銘木をふんだんに使った素晴らしいものばかり。一度は手にしてみたいものです。

ATLANSIA  アトランシア有限会社 松本市笹賀 マツモクでギターの設計に携わり独立された林信秋氏が興した工房。在籍時代、氏の設計した代表作にPE-1500がある。PEは今も名機として根強い人気がある。

龍神

松本テスコ(テスコ絃楽器)TeiscoHoney、 1967年河合楽器に吸収され、テスコ松本工場が独立しハニー鰍ニなる。南豊科にあったようです。

1960年代、松本にテスコのギターがしこたまあったことは記述が残っているが、どんなモデルだったのか全く不明。

松本木工協同組合(松本楽器製造(協))松本市笹賀  小規模のメーカーの組合。名古屋の共和商会の販売でFresherを手がける。 その他

モーリス楽器製造梶@ 笹賀の工業団地にあり、アコギ以外にもエレキギターの生産も多かった。H.S.AndersonのネーミングはH.Sさんの下の部位というウソのような本当の話がある。  Morris  Bill Lawrence、 H.S.Anderson、 モーリスはOEMで寺田楽器でも生産していたようだ。

DEVISER    DEVISER  BACCHUS  MOMOSE  HEADWAY   Brian Riverhead  Crews 松本市笹賀 1977年に古くはヘッドウェイとしてアコースティック・ギターの製造を行う。元々クロス楽器のRiderというアコギを作っていた林ギター製作所の職人、百瀬氏の技術に感銘を受け八塚氏が独立させたとのこと。放火により消失するも再起し現在も優れたギターを作り続ける。

有限会社飛鳥は、ヘッドウェイ鰍ゥら分かれDRVISER敷地内にある。

潟_イナ楽器 松本ではありませんが・・長野県茅野市 古くはダイオンが販売でジョーディーなどを製作。現在Fender Japanの上級ラインナップを製作。後にグレコも引き継いだようだ。1972年創業。

Joodee   Fender Japan Greco

ZEN-ON (旧:全音ギター製作所)諏訪市茶臼山、沖田(現在は辰野)

  MORALES  ZEN-ON

60年代、モズライトコピーといえばモラレスだった。 同じ諏訪にヤマキ楽器鰍烽る。販売会社のダイオンとは兄弟の関係だったらしい。

中信楽器製造梶@Jackson/Charvel  Jackson Stars  Jackson/Grover Jackson  B.C.Rich  Cobran JacksonStarsなど。2012年2月倒産。

安曇野市三郷。松本市の西隣です。(余談ですが1987年、近所に住むことになり、転居の手続きをしに村役場に行ったら、特産品展示ケースの中に青か紫のイーグルだったかビッチがあったのでB.C.Richを生産していたのは間違いないはず(笑))

東海楽器製造梶@静岡県浜松市 TOKAI Cat’s EYE  ハミングバード、

1980年前後のトーカイブランドの優秀さはつとに有名。熱烈な愛好家も多い。長野県でレスポールをOEM生産していたという話もあるのでここに加えた。

有限会社黒雲製作所(K.K.LOGIC) 長野県大町市 Mosrite Jiraud

1960年代、ファーストマン社の下請けとして日本製Mosriteの製造を行う。発売元は日本電通工業梶B1969年のファーストマン社倒産以降も製造し後にフィルモアとの商標を巡る争いがあった。(20071025日結審)

T’s Guitars   隣の塩尻市のギター工房。 優秀なカスタムギターを製作。その他Sadow

skyOEM。ウクレレは本場ハワイでのUkulele Exhibition2年連続優勝するなど確かな技術を誇る。

ここも確か一度火事で工場が消失したが再起し、優れたギターを製作している。

木曽鈴木バイオリン社 (鈴木バイオリン製造  ThreeS) 二光通販のTomson Tomas Kansas   Thunder 

元々は名古屋の鈴木バイオリンとして1887年に日本で最初にバイオリンを製造、水上飛行機のフロートの資材調達先として木曽工場が出来たことに由来するらしい。1950年以降の輸出向け初期Ibanezのギター生産もあったようだ。とにかく古い歴史をもつメーカー。1970年代、トムソン、トーマスの微妙なギター(笑)におせわになった輩は多いかもしれない。

ESP 潟Cーエスピー (木曽工場)木曽郡木曽町

KEIYO 株式会社啓陽 松本市島立 1954年、日本発のエレキギター テスコTG-54の開発に携わった方のピックアップ・メーカー

GOTOH PICKUPS株式会社ゴトー 松本市芳川 1966年創業 フェルナンデス、ダイナ楽器、東海楽器製造、スギギターズ等々のピックアップを手がける。 神田商会

Maxon 鞄伸音波製作所 松本市島内 業務用音響機器およびエフェクター製造

昔はマクソンブランドのピックアップがグレコにも搭載されていた他、Ibanezのコンパクトエフェクターなどもここが製造。

まだまだ細かいところ、下請けなどはいくらでもありそうですが、軽く調べただけでこんなに有名なブランドを作っている会社が松本近郊にはあるのです。 今は、安い中国製、韓国製、インドネシア製などのギターがひしめいていますが、是非いつかは一生モノになる松本の職人さんが創る松本産のギターを手にしていただきたいと思うのであります。

(ここまで:2009 6/14)









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